拒否権が行使されそうだったから安保理決議を回避したってわけ?

 この KW は「「国連憲章第107条」すなわち「旧敵国条項」ってなに?」http://www.kanshin.com/index.php3?... の続きである。

 「「国連憲章第107条」すなわち「旧敵国条項」ってなに?」の KW は、現在の国連における常任理事国の特権とそこから派生する現在の国連の構造的な不備を指摘するものだったが、ここで当然次のような疑問が生じてくるだろう。たしかに常任理事国5カ国だけが特権としての「拒否権」をもつ今の国連の仕組みはおかしい。だが、たとえ常任理事国5カ国だけに特権的に「拒否権」が与えられているのであったとしても、今回のイラクに対する武力攻撃についてはイギリス、アメリカ以外の常任理事国は反対していたはずではなかったのか、なのになぜ「拒否権」が発動されなかったのか?

 ここで「拒否権」について、おさらい:

「拒否権」=国連安全保障理事会において米・英・ソ・仏・中の5常任理事国が持つ。1国がこれを行使すれば決議は成立しない(『広辞苑 第5版』)

 では、なぜこの「拒否権」が発動されなかったのか?今回のイラク攻撃に至る経緯をもう一度思い出してみよう。そう、そうなのだ。今回、国連の「安保理」すなわち「安全保障理事会」の決議がなされないまま、米英はイラクへの攻撃を開始したのである。より正確に言うなら、米、英、スペインは、「対イラク武力行使容認の修正決議案」を土壇場で取り下げた。そもそも決議にかける議案じたいが提出されなかったわけだ。「国連安全保障理事会の決議なしの対イラク武力行使国際法上違法」とされるゆえんはここにある。

 この事実は重要なので忘れてはいけない。事実は事実としてきちんと押さえておかなくてはいけない。そこが肝心。

 そういうことなので、経緯の概要を以下に記録:

[PRIMARY SOURCE#1]

●「イラク問題:

ロシア、拒否権発動も プーチン大統領が表明」2003.02.13

 【モスクワ田中洋之】タス通信によるとフランスを訪問中のプーチン・ロシア大統領は12日、イラクへの一方的な軍事行動は「絶対に容認できない」と表明、米英が準備しているイラク攻撃容認の国連安保理決議案に関連して「ロシアは拒否権を持っており、必要あれば行使する」と述べた。地元記者団の質問に答えた。大統領は「ロシアは何度も拒否権を行使してきた」とする一方、「今はこの問題を先鋭化させるべきではない」と述べ、イラクをめぐり意見が対立している安保理内の共同作業を進める用意を表明した。

 また大統領は、米国の強硬姿勢がなければイラクから国連査察への協力を得ることはできなかったと評価し、「米国は軍事行動を開始せずに面目を保てる」と指摘。問題解決の外交的手段が残っているうちは「許された範囲を超えて戦争を始めてはならない」と米国に自制を求めた。

毎日新聞2月13日] ( 2003-02-13-11:00 )

[PRIMARY SOURCE#2]

●「米英スペイン、決議案取り下げ 英大使会見」2003.03.18

 

  【ニューヨーク佐藤由紀】イギリスのグリーンストック国連大使は17日午前10時(日本時間18日午前0時)、国連安全保障理事会の非公開協議の開会前に会見し、「我々は決議の投票を追求しない」と述べ、米、英、スペインで共同提出した《対イラク武力行使容認の修正決議案》を《安保理の採決》から《取り下げる》ことを明らかにした。同大使は「ある国が国連決議1441から後退しており、我々は、安保理での(決議案採択へ向けた)協議が不可能となったと結論付けざるを得なかった」と述べ、《拒否権をちらつかせたフランスを批判》した。

 また、米国のネグロポンテ国連大使は「違反すれば深刻な結果を招くと決めた国連決議1441が全会一致で採択されて4カ月半が過ぎたが、イラクはこの決議に沿うことをせず、さらに重大な違反を行った。採決は行われない」と述べた。同大使は「(《フランスの)拒否権の脅威》に直面したことを考慮せざるを得ず、遺憾に思う」と述べた。

毎日新聞3月18日]3月18日 ( 2003-03-18-00:33 )

[PRIMARY SOURCE#3]

●「安保理国連決議案を取り下げ 米、英、スペイン」2003.03.18

 「  国連安全保障理事会に《対イラク武力行使容認の修正決議案を提出》している《米、英、スペイン》の各国連大使は17日、安保理非公開協議に先立って記者会見し、《採択のめどが立たないため同決議案を取り下げる》と発表した。これを受け、フライシャー米大統領報道官は、ブッシュ米大統領が同日午後8時(日本時間18日午前10時)から国民向けの演説を行うことを明らかにした。大統領は演説で対イラク武力行使について国民の理解を求める一方、フセインイラク大統領への最後通告として「戦争回避のために退陣、国外退去を求める」と述べ、数日間の猶予を与えて亡命を促すとみられる。しかし、フセイン大統領がこれに応じる可能性は極めて低く、今週中にも米英が対イラク開戦に踏み切ることは確実な情勢だ。国連筋によると、米国は17日、イラクからの国連査察団の退去を勧告し、昨年11月に再開された査察は事実上、打ち切られた。」[毎日新聞3月18日]3月18日 ( 2003-03-18-01:32 )

[PRIMARY SOURCE#4]

●「対イラク攻撃:カナダ首相、安保理の承認が必要」2003.03.18

【ニューヨーク佐藤由紀】カナダのクレティエン首相は17日、下院での演説で、「カナダは国連安保理決議で支持されない武力行使には参加しない」と宣言した。この中で同首相は「わが国は安保理の承認を得た場合にのみ、軍事行動に参加することを明白にしてきた」と語った。

 カナダは英国、豪州などと並ぶ米国の重要な同盟国。アフガニスタンでの対アルカイダ掃討作戦に参加し、米軍による砲撃で4人の戦死者を出した。

毎日新聞3月18日] ( 2003-03-18-10:12 )

[PRIMARY SOURCE#5]

●「国連安保理イラク問題で外相級協議を19日開催へ」2003.03.18

 【ニューヨーク佐藤由紀】国連安保理は17日の非公式協議で、イラク問題に関する外相級安保理協議を19日に開催することで合意した。米英が決議案採決を断念した後もフランスとロシア、ドイツが平和的解決の可能性を追及する姿勢を示し、この3国の要請で開催が決まった。どの国の外相が参加するかは明らかでない。

 国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)のブリクス委員長は17日、イラク査察の作業計画として作成した「武装解除に関する未解決の任務」を安保理に提出。19日の協議はこの作業計画などに基づいた論議を行うものとみられる。

毎日新聞3月18日] ( 2003-03-18-11:27 )

[PRIMARY SOURCE#6]

●「対イラク攻撃:早ければ20日にも開戦 米大統領が最後通告」2003.03.18

 【ワシントン中島哲夫】ブッシュ米大統領は17日午後8時(日本時間18日午前10時)過ぎから全米テレビ演説を行い、イラクサダム・フセイン大統領と2人の息子に対して48時間以内に亡命しなければ武力行使に踏み切るとする最後通告を行った。また、報道関係者や国連査察官を含む外国人に速やかなイラク退去を促し、米国民に対しては、国連を舞台にした外交努力を打ち切って軍事行動を選ぶことへの理解を求めた。フセイン大統領が亡命することは考えにくく、早ければ米東部時間19日夜(日本時間20日午前)にも米英軍などのイラク攻撃が始まる可能性が高い。

 対イラク攻撃は、敵対国家やテロ組織への先制攻撃を容認した「ブッシュ・ドクトリン」が初めて発動されるケースとなる。国連議席を持つ主権国家の政権打倒を目標に掲げた戦争は、米国主導の世界秩序を強める可能性と同時に、長期的な国際摩擦と混乱を招く恐れをはらんでいる。

 ブッシュ大統領イラク情勢が「決断の最後の日々を迎えた」と述べて演説を開始。大量破壊兵器問題の経過を説明し、安保理決議1441など既存の国連決議によって米国と同盟国には軍事力で対処する権限があると主張した。

 続いて、名指しこそしなかったもののフランスなどが武力行使容認決議案に拒否権を行使する方針を続けたことを批判的に説明し、「安保理はその責任を果たさなかった」と断言。国連による「平和的な武装解除」が失敗に終わったと宣告した。容認決議を欠いた軍事行動になることについては、「我々の意思の問題」だと語った。

 ブッシュ大統領は中東地域の一部諸国が亡命を促したもののフセイン大統領は応じなかったと指摘。父親のもとで権勢を振るう長男のウダイ、二男のクサイ両氏にも亡命を求め、「拒絶すれば我々が選ぶ時期に軍事攻撃が始まる」と明言した。

 この演説はラジオを通じイラクにも放送されており、ブッシュ大統領は「暴君はまもなく去る。解放の日は近い」と呼びかけた。軍事・情報関係者に対しては、抵抗せず油田破壊や大量破壊兵器使用を控えるよう要求。戦犯は罰せられると述べ、「命令に従っただけだ」という釈明は認めないと警告した。

 ブッシュ大統領はさらに、テロ組織が米国や友好国の国民を攻撃する可能性を指摘。そうしたテロリストや支援者は「恐るべき結果」に直面すると警告した。

 大統領は、戦後の自由なイラクが中東全域の模範になれると指摘。米国やその他の諸国は中東地域の自由と平和の増進のために働くと約束した。

 米国は安保理決議1441の採択後、武力行使を容認する新決議採択をめざしたが、フランスなどが拒否権も辞さない構えで抵抗。米英スペインの3国は17日、決議案採決を取り下げる意向を表明し、「外交努力」を打ち切った。

 フセイン大統領らの亡命のために与えた48時間の猶予の開始時刻について、ホワイトハウスブッシュ大統領の最後通告の演説が終了した米東部時間17日午後8時15分(日本時間18日午前10時15分)だと説明している。期限切れは同19日午後8時15分(同20日午前10時15分)となる。

【米大統領の演説骨子】

ブッシュ大統領の演説骨子は次の通り。

一、イラク大量破壊兵器武装解除をいまだにしておらず、今後もフセイン政権が続く限りしないだろう。

一、米国は国連安保理の要求達成のために努力してきたが、一部メンバーの反対で、安保理は責任を果たせなくなった。

一、米国は自らの国家安全保障のために武力を行使する権限を持つ。

一、フセインイラク大統領と息子たちが48時間以内に亡命しなければ、攻撃を開始する。

一、イラク軍は「死に体の(フセイン)政権」のために戦うべきでない。

一、イラクの人々は自由を享受する権利があり、中東の国家のモデルとなり得る。

毎日新聞3月18日] ( 2003-03-18-13:59 )

[PRIMARY SOURCE#7]

●「イラク問題:与野党が見解発表 国連の新決議採択断念で」2003.03.18

 イラク情勢を受け、与野党は18日、見解を表明した。

 山崎拓自民党幹事長 (新決議採択に)努力したが結果として実らなかった。新しい事態を受けて対処していく。(武力行使は)国連安保理決議に基づく行動だ。首相の主張を支持する。

 菅直人民主党代表 武力行使国連憲章に反しており、支持できない。首相は武力行使支持の理由を国民に全く説明していない。平和的解決を求める国内・国際世論に背を向けるものだ。

 神崎武法公明党代表 国連の枠内での解決を主張していたので、遺憾と言わざるを得ない。しかし、北朝鮮問題も含めた日本の国益、日米同盟の重要性を考えるとやむを得ないと判断した。

 藤井裕久自由党幹事長 新決議なしの武力行使は戦後の国際平和秩序にもとる。国連の重要な加盟国(日本)が秩序に反する表明をすること自体、首相の国際的な感覚に疑問を持つ。

 志位和夫共産党委員長 ブッシュ大統領は戦争を正当化する理由を何一つ示せなかった。首相は米国の独断をおうむ返しに追認しただけであり、米国追随の姿勢を直ちに撤回すべきだ。

 土井たか子社民党党首 自らの価値観を絶対とする米国の単独行動主義は国際協調による平和的解決をめざす国連の国際秩序を著しく損なう。平和的解決の立場に日本も立つべきだ。

 熊谷弘保守新党代表 安保理の意見分裂は残念だが、イラク武装解除のためやむを得ない。支持する。復興支援などで積極的役割を果たし、有事関連法案の早期成立に全力を尽くすべきだ。

毎日新聞3月18日] ( 2003-03-18-18:30 )

[PRIMARY SOURCE#8]

●「武力行使容認決議案の賛成は4票のみ 国連安保理」2003.03.18

 【ワシントン中島哲夫】18日付の米紙ワシントン・ポストは、米国、英国、スペインが国連安保理に共同提出していた対イラク武力行使容認決議案は結局、ブルガリアを加えた4カ国の賛成しか確保できず、米英はこれを確認して決議案を取り下げたと報じた。

 ブッシュ大統領をはじめ米英政府首脳は、主にフランスが拒否権行使に固執したことで「安保理は責任を果たすことに失敗した」と非難しているが、実情は米英の多数派工作の失敗だったことになる。

 米英が激しい説得工作をかけた中間派6カ国の大使の一人は「これは国連創設以来、最も徹底的、驚異的な敗北だ。米国がこれほど孤立した時はなかった」と述べたと同紙は伝えている。

 ブッシュ大統領は16日の英国、スペインとの首脳会談の際、17日を外交努力の最終日とすると宣言したが、同紙によると、米英政府はその数時間後に、15理事国のうち11カ国の反対は崩れず説得工作の継続は無意味だと判断。ブッシュ大統領は17日朝の米国家安全保障会議(NSC)で決議案取り下げを決めた。

毎日新聞3月18日] ( 2003-03-18-20:36 )

[PRIMARY SOURCE#9]

●「国際法研究者:23人がイラク武力行使は違法 川口外相に声明」2003.03.18

 日本の国際法研究者が18日、外務省を訪れ、国連安全保障理事会の新たな決議なしの対イラク武力行使国際法上違法であるとして、川口順子外相あての声明を林景一条約局長に手渡した。声明に賛同したのは発案者の五十嵐正博・金沢大教授や大沼保昭・東大大学院教授ら23人。

 声明では対イラク武力行使が許容されない理由として、「自衛権発動の要件である武力攻撃が発生していない」と指摘。国連憲章では武力による行使や威嚇を禁止し、例外的に認められるのは平和に対する脅威への集団的措置などとして安保理が容認を決定する行動に限られるが、今回は「安保理によって容認されない、明確な同意を得ない武力行使は違法であろう」と強調している。

 ブッシュ米大統領が武力行使の根拠にした安保理決議1441については「その(武力行使)ような同意を与えたものではない」と否定している。

毎日新聞3月18日] ( 2003-03-18-23:01 )

[PRIMARY SOURCE#10]

●「『米国の決定を支持しない』 仏シラク大統領」2003.03.19

 【ブリュッセル森忠彦】ブッシュ米大統領がイラクに「最後通告」を突きつけた事態を受け、フランスのシラク大統領は18日、「米国の決定を支持しない」との声明を発表した。

 声明では「国連安保理や国際世論に反した今回の決定の責任は大きい」と指摘。その上で「今回の最後通告は、イラク大量破壊兵器の破棄を進めるという世界の声とは逆のものだ。武力行使を容認できるのは安保理だけだ」とし、事実上、国連決議を経ないで行う米英の攻撃開始を強く非難した。

 安保理常任理事国のフランスは今回の危機に関して国連査察の継続と攻撃反対を求めてきた。

毎日新聞3月19日] ( 2003-03-19-01:14 )

[PRIMARY SOURCE#11]

●「『開戦に正当性ない』と批判 独シュレーダー首相」2003.03.19

 【ウィーン福井聡】ドイツのシュレーダー首相は18日、テレビ演説で、対イラク開戦に正当性はなく、ドイツを含む国際社会の多数の市民は戦争に反対していると批判した。

 首相は「イラク独裁者の脅威によって、子供を含む無実の人々の殺害につながる戦争は正当化されるのだろうか。私の答えは一貫してノーだ」と強調。国連査察団はイラク武装解除大量破壊兵器廃棄)に成功しつつあるとして、「この武装解除の過程を終結する理由はない」と主張した。

 首相はまた、安保理でフランスやロシアを含む常任理事国が開戦に反対していることを評価し、「圧倒的多数の市民が私と同じ立場であることに感銘を受けている」と語った。

毎日新聞3月19日] ( 2003-03-19-00:38 )

[PRIMARY SOURCE#12]

●「安保理:対イラク最後通告期限を前に外相会合」2003.03.19

 【ニューヨーク佐藤由紀】国連安保理は19日、フランス、ロシア、ドイツ、シリア、ギニアの5外相が出席して外相会合を開き、イラク問題を協議する。ブッシュ米大統領による最後通告の期限を前にした最後の外交の場だが、イラク攻撃の主体となる米英やスペインの各外相が出席を見合わせるなど安保理内の亀裂は深い。

 この会合には国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)のブリクス委員長が出席、17日に安保理に提出したイラク査察の「作業計画」を話し合う。外交筋によると、18日の非公式協議でロシアが「作業計画」の採択を提案したが、米国が「検討する時間がほしい」と留保してまとまらず、19日の採択は見送られる見通しだ。

 「作業計画」承認によって査察の正当性、継続性を確保するというのが、フランス、ロシアなどの狙いで、ドイツのプルーガー国連大使は18日、「査察は中断しただけで放棄されたのではない。戦争後も武装解除の査察は必要であり、作業計画を採択していくことは意義がある」と語った。一方、米外交筋は「(作業計画を)いま議論しても意味がない」としている。

 理事国のカメルーンアンゴラの各外相は18日、国連の別の会議に出席していたが、米国の要請で19日の外相会合への欠席を決めたという。

毎日新聞3月19日] ( 2003-03-19-19:12 )

[PRIMARY SOURCE#13]

●「国連事務総長イラク攻撃秒読みでも動かず」2003.03.19

 【ニューヨーク上村幸治】米英のイラク攻撃が秒読みに入る中、危機鎮静化に動こうとしなかったアナン国連事務総長への疑問が強まっている。各国の特使がバグダッドを訪れた時も、アナン総長は動こうとしなかった。ワシントンへ赴いてブッシュ大統領と話し合おうともしなかった。世界の平和と安全の維持を図る国連という組織を束ねながら、アナン氏は一番大切な時期に極めて影が薄かった。

 アナン総長は昨秋の総会で、国連安保理の決議だけがイラクへの武力行使を正当化できると指摘し、単独行動をほのめかす米国をけん制。一方では、イラクが査察への協力を拒むなら、安保理が厳しい対応を示すのもやむをえないと説明した。

 しかし、それ以後はこの見解を繰り返すだけで、フランスやドイツなどから新しく出てきた査察継続論などについて、ほとんど自分の意見を述べていない。

 91年の湾岸戦争の時は、期限切れぎりぎりの段階で、デクエヤル事務総長(当時)がバグダッドを訪れ、最後の説得を行っている。今回もすでにローマ法王の代理や各国の有力者が、相次いでイラクを訪問し、説得を続けた。

 アナン総長は今回、しびれを切らした各国の有力政治家や記者団から「いつバグダッドへ行くのか」と聞かれても、「条件が整っていない」「共通の理解が得られていない」などと答えるにとどまった。

 アナン総長は98年2月のイラク危機の際、バグダッド入りしてフセイン大統領と会談し、査察受け入れの合意をとりつけた。しかし、イラク側がすぐに査察への妨害を始めた結果、年末には米英軍がイラク空爆する事態になっている。

 アナン氏は安保理の決定にすべてを委ねたとの見方もあるが、フセイン大統領に振り回された98年時の苦い経験から、同氏に直接かかわるのを避けたのではないか、という声もある。

毎日新聞3月19日] ( 2003-03-19-22:16 )

[PRIMARY SOURCE#14]

●「イラク問題:精彩欠く首相説明 『世論納得』は遠く」2003.03.20

 小泉純一郎首相は19日、国連安保理の新決議がなくても米国のイラク攻撃を支持する方針を表明後、初の党首討論に臨んだ。開戦が秒読みになって、これまでのあいまいな国会答弁から一転、明確な武力攻撃支持に踏み切ったことで、野党党首は支持表明の正当性や説明不足を突いた。首相は、イラクフセイン大統領が大量破壊兵器廃棄に非協力的だったとして、武力行使の正当性を強調したが、依然強い戦争反対の世論を納得させるような系統だった説明は聞かれなかった。 【徳増信哉、及川正也】

 【説得力は?】

 菅直人民主党代表が新決議なしの対イラク攻撃の不当性と首相の説明責任を追及すれば、首相はイラク政権批判と日米同盟の重要性を強調し、議論はかみ合わなかった。

 政府は、「日米同盟と国際協調の両立」を目指し、関係国に新決議採択を働きかけた。「日米同盟」の突出を避けるため、新決議採択で開戦に対する国際社会のお墨付きを得る――この路線の破たんが、首相の立場を苦しいものにし、この日の討論でも精彩を欠く理由となった。

 特に「決議なし」の武力行使の正当性をめぐっては、土井たか子社民党党首が「安保理の承認のない攻撃は国際法上の侮辱で国連憲章に合致しない」とのアナン国連事務総長の発言を紹介して見解を迫ったが、首相は「過去の決議でも妥当性がある」と釈明に終始した。

 また、川口順子外相は衆院外務委で「米国は先制攻撃するとは言っていない。(米軍などの)コソボ空爆(99年)でも決議はできなかったが、国連の権威は傷ついていない」と強弁、米擁護の姿勢を印象付けた。

 【なぜ支持か】

 「武力行使しない限り、イラク大量破壊兵器を廃棄しないだろう」。首相は武力行使支持の理由についてイラク大量破壊兵器問題を前面に掲げ、川口外相も参院予算委で「大量破壊兵器で日本人が殺傷されないためだ」と強調した。

 大量破壊兵器がテロリストに渡り、世界的脅威になる事態に先手を打つ――。米支持は「決議違反→査察非協力→同兵器拡散阻止→武力行使容認」という論理で、外相は「(武力行使は)人類を守るための手段だ」とまで言い切った。

 しかし、なぜ今、武力行使なのかついては「限度が来た」(首相)「米英は努力を尽くした」(外相)など説得力ある答弁はなかった。菅氏は「決議が思う通りにならないと(安保理を)無視して行動する米国に賛成するのか」と迫ったが、首相は「米国は決議を無視していない」「日米同盟の重要性も考えた」と述べ、むしろ「対米追従」を際立たせただけだった。

毎日新聞3月20日] ( 2003-03-20-00:42 )

[PRIMARY SOURCE#15]

●「国連査察委員長:イラク攻撃不可避に『悲しみ』 外相級会合で」2003.03.20

 【ニューヨーク佐藤由紀】国連安保理は19日、フランス、ロシア、ドイツ、シリア、ギニアの5外相が出席して外相級会合を開き、イラク問題を協議した。会合では国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)のブリクス委員長が17日に安保理に提出したイラク査察の「作業計画」を説明した。同委員長はこの報告の中で「3カ月半の査察で、大量破壊兵器がないことを証明できなかったこと、われわれに(作業を継続する)時間が残されておらず、武力行使が避けられないことに、悲しみを感じる」と語った。

 ブッシュ米大統領による最後通告の期限を前にした最後の外交の場だが、イラク攻撃の主体となる米英やスペインの各外相が出席を見合わせるなど安保理内の亀裂の深さを見せつける結果となった。

 フィッシャー独外相は「この時点でも武力行使でしかイラク武装解除ができないという見方は支持できない。平和的解決の可能性がある限り、あらゆる方法で努力する」と語って、米、英の武力行使を批判した。

 またドビルパン仏外相は平和的解決が不調に終わったことを批判する一方、「今は国際的協調が必要だ」と述べる一方、イラクでの人道援助などで国連が「大きな挑戦に立ち向かっていくべきだ」と国連の重要な役割を強調。イラク問題を話し合うための首脳級会合を改めて提案した。

毎日新聞3月20日] ( 2003-03-20-01:47 )

[PRIMARY SOURCE#16]

●「米大統領補佐官:アナン事務総長と『将来のイラク』で会談へ」2003.03.20

 【ニューヨーク上村幸治国連報道官は19日、ライス米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が2、3日中にアナン事務総長を訪ね、「将来のイラクにおいて国連の果たすべき役割」を話し合うと発表した。対イラク戦中の人道支援や戦争終結後の復興計画の青写真を作ることになりそうだ。

 アナン事務総長と強いパイプを持つパウエル国務長官でなく、ライス氏が来ることについて「パウエル長官が米政権内で苦しい立場に追い込まれているのではないか」という観測も流れている。

 パウエル長官は今回、政権内の反対を押し切ってイラク問題を国連に持ち込みながら、新決議の採択に持ち込めなかった。これを「外交上の失敗だ」と指摘する声も出ているという。

 国連安保理は19日、イラク攻撃に関連する問題を安保理の非公式協議で近く話し合う方針を決めている。すでに米英が、戦後のイラク復興の推進を促す決議案の作成に着手しており、同問題をテコに仏露独など武力行使反対派との関係を修復しようとしている。

 アナン事務総長も復興計画に理解を示しており、軍事行動が終了する前に人道援助に乗り出せるよう、関係国との話し合いに入っている。

 なお安保理では、アラブ諸国の後押しを受けたシリアが、米英軍によるイラク攻撃を非難する決議案を作成している。提案されても米英が拒否権を行使するのは確実だが、新決議採択をめぐって安保理が分裂した直後ということもあり、各国の本音を探る機会になりそうだ。

毎日新聞3月20日] ( 2003-03-20-20:58 )