アイヒマン問題

善きものは同時に悪もかかえている

ナチスドイツの政権下

ドイツの一般市民たちの多くはごくふつうの善き人たちで

目の前からかつての隣人たちが大勢消えて行ったけど

そのひとたちの命の行き先について真剣に考えたりはしなかった

自分たちの家族の日々の暮らしとささやかなしあわせを守ることを優先した

暗闇のむこうにあるものは考えないようにした

善き人たちはそんなつもりじゃなかったかもしれないけれど一致団結し

ありえないはずのものを

確実に可能にしていった

ホロコーストの地獄を

善きものは同時に悪もかかえているということを受け入れない限り

悪の暴走を抑えることはできない

アイヒマンは怪物でも倒錯的サディストでもなかった

彼は命令されたことを時計のように正確に遂行した「ふつうの善き人」のひとりだった

このことのグロテスクさと救いがたさ

人類が歴史上初めて直面したこの問題をアイヒマン問題と名付けるなら

アイヒマン問題の深刻さに初めて気づきそのことを言語化していったのがハンナ・アーレント

すべての物事を善と悪とに分類し

その際の判断の基準を自らに対して問い正すことのないまま

悪と判断したものを徹底的に排除し自分から遠ざけることで

善としての自己の安定を保とうとする

こうした精神のあり方からひとりひとりが解放されていかない限り

わたしたちは

あのアイヒマンと同じ

善き人であるだけじゃあだめなんだ

無自覚なままアイヒマンになってしまっているかもしれないんだから

わたしにとってそれはものすごく怖いこと

どうしてそれはいいこと?


なぜ?


どうしてそれは悪いこと?


なぜ?

どうしてそんなふうに判断したの

どうして?

どうしてだろう?

わたしのコンプレックスのせい?

とか

いろいろ考えてみる

いろいろ考えている

イデオロギーとか

主義 ( -ism ) とか

党派とか

そんな罠たちに絡め取られたくはない

情熱に抱かれ燃える叡智になりたい

映画『ハンナ・アーレントhttp://www.cetera.co.jp/h_arendt/

2014年12月6日追記:

DVDでもまた繰り返し見てみたいと思っています。

http://www.amazon.co.jp/dp/...

  

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