方向性さえ間違っていなければ

方向性さえ間違っていなければ。

どんな暗闇のなかを歩いていても、方向性さえ間違っていなければそれでいい。

 

けど、もし、途中で、方向性が全く違っていたことに気づいたなら。

 

それがあの男の自爆であったはず。

気狂いピエロのフェルディナン・グリフォンの自爆

グリフォンってなまえだったなんて知ってた?)。

 

女はイデオロギー。あるいは政治的信条。理想のために闘っている女闘士。

だと思ってたけど、まったく違っていた。

女は嘘つきで最初から裏切り者。それはなに?それは自由主義陣営のイデオロギー

嘘つきで最初から裏切り者。その集まりが自由主義陣営。

 

女の周辺には怪しい連中がうろつく。つきまとう正体不明のなにか。暴力と大量虐殺を示唆するどぎつい道具(モノ)たちが、キッチンのお鍋やケトルのように、さりげなく配置されている。

とても残酷で血に飢えている。持ってるハサミでぐさりと殺る。けどまたけろりとした顔で現れ子犬のぬいぐるみのポーチからリップをとり出し塗り直す。

それがベトナム戦争時の自由主義陣営。綺麗な顔の裏に本心を隠す国家の姿。

 

そういう映画だったんじゃない?気狂いピエロって。

 

けどそういう女をそれでも愛したわけだし。男は。

じゃあ、あと自爆するしかないじゃん。

今更もとのクソプチブルたちの、かっこばっかつけてるけどあたまのなかは女と寝ることしか考えてない頭からっぽ連中たちのいる場所に戻るなんてできないし、かと言ってあの女を許せる?

最初から騙されてたことが明確になったとき。

方向性を修正するためにできることはただひとつ。

裏切り者を撃った後

カラフルに自爆。

ざまみろだ。

なにが見えた。

永遠が。

ざまみろ。

それこそ気狂いピエロ

気狂いピエロのまま永遠に生きろ!

 

 

 

 

ーーあとがきーー

自爆なんて言葉を聞くと物騒だとかなんとか騒ぎ出す連中だらけの世の中だけど、今まで自分が慣れ親しんだやり方を壊すことだって立派な自爆。いつも歩いてる道とは別のルートを通って遠回りしながら意味なくだらだら歩け。途中滑り台の上で遠吠えでもしてみろ。子供たちが振り返ったりなんかしたら上出来。

フェルディナンがダイナマイトへの着火後、我に返って火を消そうとしたなんて、そんな馬鹿げた話を信じるな。

本人は絶望の極み。なのに側から見たらこの上もなく滑稽。失恋はどれひとつ同じじゃないのに。馬鹿さ加減はどれも同じ。でもあの映画がただの恋愛映画じゃないことは忘れるな。ゴダールはいつも恋愛映画を偽装工作に使ってる。

 

それでも、ひとを好きになることを知らない人間がよい社会を作り出すこともできない気がする。だから恋愛と社会闘争って根っこのところでは繋がっていると思う。

 

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わたしは固定しようとする。

けどゴダールの映画は自由に動く。

でも両義的って言葉で逃げるな。

と、わたしは言う。

(独白)。

 

 

あっ

大事なこと言い忘れてた。

フェルディナンってインテリのカリカチュアだから

かたときも本を離さず読んでは書き続けているフェルディナンが崇拝する芸術も

すでに女の裏社会のインテリアの一部

共犯関係

フェルディナンがマリアンヌとそうなっちまったように

だからフェルディナンはピエロ以外、何者にもなり得ない

 

 

だからピエロでいい

ピエロの姿で気が狂え

気狂いピエロになって自爆しまくれ

一瞬一瞬を永遠に変えろ

 

 

闘え