「2001年、
イラクの死者の数を
百五十万人と推定する
レポートを発表した。
このうちの六十二万人が
五歳以下の子供だった」
百五十万人これは2003年3月1日現在の京都市の人口に匹敵する
2003年3月1日現在の京都市の人口、百四十六万五千百八十九人
京都の街に住む人たちすべてが犠牲になった
そんなとてつもない人数
それが百五十万という数字
戦争時の爆撃によるのではなく
経済制裁によって百五十万人が亡くなっているのだ
五歳以下の子供たち
日本で言えば幼稚園の年長さん以下の子供たち
その子たちが経済制裁によって六十二万人も死んだ
六十二万人というのは、東京都渋谷区、新宿区、中央区、千代田区の人口をあわせてもまだ八千四百九人ほど足りない
それが六十二万という数字
それほど多くの子供たちが死んだ
苦しむためだけに生まれてきたような子供たち
なんのために生まれてきたのだろう
そして今また戦火にさらされている子供たち
どうにか攻撃をやめさせることはできないのだろうか
イラクから遠く離れた国で豊かに暮らしているわたしたち
イラクから遠く離れた日本にいるわたしたちにできることはなんなんだろう
このまま見殺しにはできない
知らぬ振りはできない
「この国 [=イラク] に言論の自由がないことは否定できない。またフセインとバース党が政権維持のために粛正と弾圧を重ねてきたというのもたぶん本当だろう。少数意見を尊重することを民主主義の基本原理の一つとすれば、イラクは民主主義国家ではない。しかしそれはまずもってイラク国民の問題であり、他の国が武力を使ってまで是正すべきことではない。封建領主そのままのサウディアラビアの体制や、アラブ系の国民の権利を蹂躙し続けるイスラエルの政府を容認したままサダム・フセインの政府を非難するのはフェアでない。」
「経済制裁でさえたくさんの子供を殺した。あれは制裁に名を借りたジェノサイドだと批判された。戦争はもっと直接的な破壊である。湾岸戦争でアメリカは数百トンの劣化ウランを使用した。イラク南部には放射線に苦しむ子供や大人がたくさんいる。その意味で、あれはヒロシマ・ナガサキに次ぐ核戦争だったと言うことができる」
引用はすべて『イラクの小さな橋を渡って』(池澤夏樹・文、本橋成一・写真)より
全国151区の2002年10月1日の推計人口:
東京都 渋谷区 201,139
東京都 新宿区 294,029
東京都 中央区 79,745
東京都 千代田区 36,678
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計 611,591
ジェノサイド【genocide】:
(「ジェノ」は人びと、「サイド」は殺害の意)集団殺戮(さつりく)
⇨ジェノサイド条約:正式には「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約」。第二次大戦の経験から、国民・人種・民族ならびに宗教上の集団を迫害し殺害する行為を国際犯罪とし、各国協力のもとに防止・処罰しようというもので、1948年12月の国連総会で採択。
(『広辞苑 第五版』より)
「1991年の湾岸戦争で、米・英軍は新兵器の「劣化ウラン弾」を、イラク軍に対し初めて実戦で使った。核爆発や核融合を伴う原爆、水爆とは違う放射能兵器である。停戦成立から九年がたった今、退役米・英軍人やその家族、戦場となったイラクの軍人、市民らの間に放射線被曝(ばく)などによる健康障害が広がっている。米・英、イラクで取材するうち、白血病やさまざまな慢性疾患にさいなまれる「知られざるヒバクシャ」の深刻な実態が浮かび上がった。」