『原発事故はなぜくりかえすのか』

《あの事故に接したとき私は、これまでの原子力事故とは本質的に違う、身が震えるような衝撃を覚えました。それは、あの臨界事故が起こって青い光が光った。その青い光によって大内さんや篠原さんが打ち倒されたわけですけれども、あの青い光がメッセージを放ったと思うのです。その青い光のメッセージは、大内さんたちだけではなく、私たち日本人皆に対して発せられていて、私たち日本人の戦後というものを根源的に問うことになったのではないかという気がしました。

 あの原子力事故のときに光った青い光は、"チェレンコフの光" と言われています。原子炉で核分裂の連鎖反応が起こった際、その核分裂反応の高いエネルギーを持った粒子が水の中を運動するときに発する特殊な光です。それはいわば核爆発とか、核分裂といった現象に固有の光です私たちはこの光を、一般の人が浴びるというような形で、三たび見ることになったわけです。

八月六日

 第一は、広島で一九四五年八月六日に起こった被爆でした。このときは、青い光は、まさにピカドンという象徴的な言葉で呼ばれました。第二が、同年八月九日に長崎で起こった被爆でした。さらに、青い光を直接見たかどうかという問題はちょっと微妙ですが、青い光の衝撃に派生する光やキノコ雲を見たものとしては、一九五四年三月一日のビキニ環礁における第五福竜丸の久保山愛吉さんたちの被爆があります。それらはいずれも人間の死をもたらしました。

 もちろん広島、長崎の死と、久保山さんの死ではずいぶん規模も違いますし、意味も違うところがあります。しかし、基本的に同じ急性の放射線障害によって、死がもたらされたと言うことができると思います。それは皆、核分裂という核爆発現象が起きて光った青い光によってもたらされたもので、その衝撃だったのです。

 そしてしばらくその青い光というものを、我われはすっかり忘れていました。ところが一九九九年、広島・長崎から数えればもう五十四年、ビキニ環礁からは四十五年にあたりますが、核の半世紀というようなことを私たちは軽く口にしますけれどもその半世紀後に、もう一回この光を、JCOの事故によって私たちは見ることになったのです。

 もちろん私たち一人ひとりがこの光を見たわけではありませんが、大内さんの死、篠原さんの死という形をとって、また、大内さんや篠原さんたちの証言から青い光が光ったということによって、広島や長崎で起こった核分裂と同じ臨界事故であったことを私たちは知らされ、あらためて核の持つ潜在的な破壊性、暴力性、その恐ろしさというものに驚いたわけです。》

1999年、青い光を発し、茨城県東海村の核燃料加工工場 (JCO) の臨界事故発生。国際事故評価尺度。「レベル4」。

しかし、青い光のメッセージは黙殺される。

わたしたちは今、青い光のメッセージを正しく理解していた高木さんの指摘に深くうなずく。高木さんの死後となった2011年に。

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高木仁三郎原発事故はなぜくりかえすのか』(岩波新書、2000年)

【目次】

はじめに

臨界事故/青い閃光/八月六日/峠三吉の詩/饒舌な報告書

1 議論なし、批判なし、思想なし

安全神話の崩壊/安全文化/原子力文化/安全第一/事故点検のなさ/原子力産業の状況/さまざまな用途の研究/相互批判なし/議論なし、思想なし/原子力の導入の歴史/原子力村の形成/奇妙なブーム/ある経験

2 押しつけられた運命共同体

国家まかせ/大事故の評価/トップダウン型の開発/サッカーにたとえると/「三ない主義」/「我が国」という発想/マイ・カントリー

3 放射能を知らない原子力屋さん

バケツにウランの衝撃/物理屋さんと化学屋さん/放射化学屋の感覚/物理屋さんの感覚/自分の手で扱う/放射能は計算したより漏れ易い/事故調査委員会も化学抜き

4 個人の中に見る「公」のなさ

パブリックな「私」/普遍性と没主体性/公益性と普遍性/仏師の公共性/技術の基本/原子力は特殊?/科学技術庁のいう公益性

5 自己検証のなさ

自己検証のない原子力産業/自己に対する甘さ/自己検証型と防衛型/委員会への誘われ方/結論を内包した委員会/アカウンタビリティー/寄せ集め技術の危険性

6 隠蔽から改ざんへ

隠蔽の時代/質的転換/技術にあってはならない改ざん/技術者なし

7 技術者像の変貌

物の確かな感触/ヴァーチャルな世界/倫理的なバリアの欠如/新しい時代の技術者倫理綱領

8  技術の向かうべきところ

トーンを変えた政府/JCOの自己の意味/技術の極致/現代技術の非武装化

あとがきにかえて

友へ 高木仁三郎からの最後のメッセージ/高木さんを送る

高木仁三郎・年譜

http://www.amazon.co.jp/gp/product/...

問題を隠し続けては事故を繰り返す閉鎖的なシステムは原子力産業にとどまらないはず。

経済界&政界の強力なバックアップがあってこそ原子力産業は巨大化した。

すでに汚染されつくした社会のすべての領域に適用されうる新しい時代の《倫理綱領》、社会の舵取りをするにあたっての《具体的方法》を、わたしたちは高木さんのメッセージから学びとろう。

新しい仕組みを作っていかなくては。

わたしたちみんなで。

そうしなければ、あいつらのシステムの奴隷にされちゃうから。

「続く苦悩、チェルノブイリ作業員」

(National Geographic News April 27, 2011)

http://www.nationalgeographic.co.jp/...

お手盛り期間と化した保安院山形浩生(Voice 4月18日(月)12時39分配信)

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/...

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