マルクス・エンゲルス・イェニー・メアリー

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昨日、岩波ホールで『マルクス・エンゲルス』を見た。

その感想を少しだけ書き残しておきたい。

 

マルクスが仕事を残せたのはエンゲルスマルクスの妻イェニーがいたから。

あの頃マルクスの天才を「正しく」理解できたのはエンゲルスとイェニーだけ。

マルクスに勝るとも劣らないだけの能力があったからこそ、それまでだれも心に描いたことのないビジョンを彼らは共有できた。

そのことを確認できたことがあの映画を見た収穫のひとつ。

 

そして、もうひとつ。

ゴダールは『パッション』のなかで、なぜ映画は工場を舞台にしないのか、なぜ働く労働者たちの姿にカメラの焦点を当てないのかと語っていた。それに応えるかのように『マルクス・エンゲルス』のラウル・ペック監督は労働者たちをこの映画の欠くことのできない要素として明確に位置づけていた。映画の主役はマルクスエンゲルス、イェニーだけではない。労働者たちがこの映画の隠れた主役たち。マルクスエンゲルス、イェニーがなにを見ていたのかを知るためには、彼らの視線が向かうその先にいた労働者たち、スクリーンの向こう側からこちらをじっと見据えるあの労働者たちの視線としっかり目を合わせなくてはならない。それはエンゲルス事実婚の相手、アイルランド労働者メアリー・バーンズの人を射抜くような強烈な眼差しと視線を合わせることでもある。

 

この映画は、森に落ちている枯れ枝を集めているだけの村人たちを馬に乗った武装警官たちが容赦なく鞭打つ暴力シーンから始まる。森の所有者の財産を守ることを名目とするその罰は、荷を捨て逃げ惑う人びとをそれでもなお執拗に追いかけ刺し殺すところまでエスカレートし、そのむき出しの悪意は悪夢となって若きマルクスを苦しめる。

 

所有と財産についてもっと具体的に考えろとマルクスは批判する。

 

仕事がないと家族に食べさせることもできない。食べることができなければ生きていけない。

生死に関わるリアルな対立。それは21世紀の今も同じ。

 

会場には岩波ホールの常連らしき人たちに加え学生たち仕事帰りのサラリーマン風の人たちなど肌の色も年齢も職業も実に多様な観客たちが馳せ参じていた。ゴダールの『フォーエヴァー・モーツァルト』で、納屋の前で突然演奏されるモーツァルトのピアノ演奏に農民たちが仕事の手を休め思い思いのポーズで聴き入るシーンがあった。普遍的なものは人を惹きつけ自然に耳を傾けさせる。この映画の若きマルクスエンゲルスそしてイェニーとメアリーには眩いまでの人間的健全さがある。それがこの恐るべき映画に愛らしさと普遍性を与えている。

 

 

 

エンドロールのバックにはボブ・ディランによるアイロニーの弾丸を込めた「ライク・ア・ローリング・ストーン」が元気いっぱい流れていた。

 

 

子供たちを使うのは経営の常識だよ 他社を負かし利益を上げなきゃならんからね  

なんぞと得意げにほざくエンゲルスの父親の資本家仲間。 

 

労働力を買い叩いて 子供たちまでひどい目に遭わせやがって  

利益だと? あんたが言ってる利益って搾取のことだろが

あんたなあ 搾取でぬくぬく生きているあんた あんたのことだよ

いいか そのうち搾取なき社会が来たらな そん時きゃ あんたにも働いてもらうからな 

しっかり働けよ みんなと一緒に 

あんたがこき使ってた連中 さぞかし歓迎してくれるだろうよ 

や 恐ろしいだろね あんたにはね、

と言い放つ若き日のマルクス

 

 

その強烈な真実がボブ・ディランの曲により大音響で増幅されていた。  

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追記 ( 2019年1月30日 )

本日 2019年1月30日  WOWOW で 21:00 より『マルクス・エンゲルス』放映

以上、Lucy @ このところ連日ジョン・フォード監督の映画を見続けていたゆえ報告

加筆訂正 ( 2019年2月16日深夜 )

追記その2(2019年3月27日 )

1840年代ドイツ。それまで共有地だった森から農民たちがこれまでのように自由に木の枝を拾うことが「窃盗」として処罰されるようになる。ライン新聞記者時代の若きマルクスが取り憑かれたのがこの「材木窃盗罪」事件。当初考えていたのとは異なりこの問題を法律だけでは扱えないと悟ったマルクスは本腰を入れ社会・経済史の研究へと向かうことになる。この意味において「材木窃盗罪」事件がマルクスの出発点だと柄谷行人は指摘している(『世界史の実験』)。

明治初期1870年代の日本で、山林を古代のように共同所有に戻そうとする運動が起きた。が古代の所有形態には戻らず山林は天皇所有のものとされてしまった。そのこともここに書いておきたい(『世界史の実験』を読んだ Lucy より)。

 

ところで、マルクス共産党員じゃないからね。そもそも当時、世界には共産党なんか存在してなかったんだから。マルクスエンゲルスが書いたのは共産主義者宣言。

 

 ゴダールはCINEMARXIST。

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