《ともに暮らす人間たちのうちで永遠平和は自然状態ではない。自然状態はむしろ戦争状態なのである。つねに敵対行為が発生しているというわけではないとしても、敵対行為の脅威がつねに存在する状態である。だから平和状態は新たに創出すべきものである。》
《「何よりも純粋な実践理性の王国と、その正義を推進せよ。そうすれば汝の目的、すなわち永遠平和の恩恵はおのずから実現されよう」
というのは一つの民族の内部でも、複数の民族の間でも、人間にとって何が正義であるかを決めるのは、原則にしたがって定められた普遍的な意志だけだからだ。すべての人々の統合された意志が、実践において一貫性を維持することができるなら、自然のメカニズムにしたがって意図した結果をもたらすことができるとともに、法の概念に効力を与える原因にもなるのである。だからこそたとえば、一つの民族は自由と平等という普遍的な方の概念にしたがって、一つの国家を樹立して統一されるべきであることが、道徳的な政治家の原則となるのである。》 「永遠平和のために---哲学的な草案」(1795年)
内容( ◇は訳者による小見出し)
◇保留条項
第一章 国家間に永遠の平和をもたらすための六項目の予備条項
◇戦争原因の排除
一 将来の戦争の原因を含む平和条約は、そもそも平和条約とみなしてはならない。
◇国家を物件にすることの禁止
二 独立して存続している国は、その大小を問わず、継承、交換、売却、贈与などの方法で、他の国家の所有とされてはならない。
◇常備軍の廃止
三 常備軍はいずれ全廃すべきである。
◇軍事国債の禁止
四 国家は対外的な紛争を理由に、国債を発行してはならない。
◇内政干渉の禁止
五 いかなる国も他国の体制や統治に、暴力をもって干渉してはならない。
◇卑劣な敵対行為の禁止
六 いかなる国家も他の国との戦争において、将来の和平において相互の信頼を不可能にするような敵対行為をしてはならない。たとえば暗殺者や毒殺者を利用すること、降伏条約を破棄すること、戦争の相手国での暴動を煽動することなどである。
◇予備条約の性格の違い
第二章 国家間における永遠平和のための確定条項
◇自然状態の破棄
◆永遠平和のための第一確定条項
どの国の市民的な体制も、共和的なものであること。
◇共和的な体制の条件
◇共和制と戦争
◇三つの体制
◆第二確定条項
国際法は、自由な国家の連合に基礎をおくべきこと
◇自然状態にある国家
◇〈法・権利〉の根拠
◇平和連盟の役割
◇消極的な理念としての連合
◆永遠平和のための第三確定条項
世界市民法は、普遍的な歓待の条件に制約されるべきこと
◇歓待の権利
◇世界市民の可能性
◆第一追加条項
永遠平和の保証について
◇自然の配慮
◇氷の海と砂漠
◇戦争
◇戦争の意味
◇自然の意図
◇天使の国と悪魔の国
◇世界王国
◇商業の役割
◆第二追加条項 永遠平和のための秘密条項
◇許される秘密条項
◇法律家と哲学者
◆付録
一 永遠平和の観点からみた道徳と政治の不一致について
◇政治と道徳の「対立」
◇永遠平和が「不可能な」理由
◇道徳的な政治家とは
◇実務的な法律家の過ち
◇三つの詭弁的な原則
◇政治と道徳の対立
◇理性の二つの原理
◇戦略問題と政策問題
◇普遍的な意志の威力
◇正義はなされよ……
◇悪の原理
◇神と人間の悪
◇政治と道徳の「対立」
二 公法を成立させる条件という概念に基づいた道徳と政治の一致について
◇公開性
◇公法の成立の条件
◇国内法における公開性の原則の実例---革命
◇国際法における公開性の原則の実例---他国との約束、他国への攻撃、合併
◇二重人格の二律背反
◇超大国への攻撃の二律背反
◇小国の併合の二律背反
◇世界市民法における公開性の実例
◇政治の策略
◇政治の二枚舌
◇公法の超越論的な原理再論
◇永遠平和という課題